Amazon.co.jp
最高の若手ヴァイオリニストのひとりとして、押しも押されもせぬ存在であるヒラリー・ハーン。早くから輝くばかりの才能を感じさせた彼女は、努力する天才でもあった。23歳になったハーンは、豊かな表現力を持つ素晴らしいヴァイオリニストへと成長を遂げている。今回の録音でハーンが取り上げたのは、バッハの「ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調 BWV1041」と「同第2番ホ長調 BWV1042」、さらに「2つのヴァイオリンのための協奏曲ニ短調 BWV1043」と「オーボエとヴァイオリンのための協奏曲ハ短調 BWV1060」。非の打ちどころのない演奏技術、際立った美しさ、くっきりとした音色を満喫できるアルバムだ。
ハーンの演奏には崇高さと節度がある。そのため、「モダン」な響きとヴィブラートにもかかわらず、サウンドはクラシカルで自然な清潔さを感じさせる。これとは対照的に、オーケストラのサウンドは美しいがあきれるほどに派手で、どうにも場違いな感じだ。が、2人の優秀な共演者とハーンの息はぴったりで、音色もスタイルも相性抜群。比較的なじみの薄い曲である「オーボエとヴァイオリンのための協奏曲」は、とりわけ見事な演奏となった。
音楽に対する真摯で思慮深い取り組み方とは裏腹に、残念ながらハーンは「指がついていく限り速く弾く」という今日の演奏家たちのトレンド(おそらくジェット時代を反映したもの)に流されてしまっている。速い楽章はものすごいスピードで演奏されるため、楽曲の持つ優雅さ、品格、魅力が台無しになり、わざとらしいアクセントや、攻撃的でやたらと気ぜわしい弾き方ばかりが目立ってしまう。品位に欠ける演奏家ならば、単に器用さを誇示したいだけと思われかねないところだ。しかし、緩徐楽章になると、ハーンの音楽性、表現力、バッハに対する思い入れ(ソニーから無伴奏ヴァイオリン曲集『Hilary Hahn Plays Bach』もリリースしている)がハッキリと現れる。穏かでゆったりとした演奏は、音形を注意深く描き出しており、豊かな情感をたたえ、どこまでも美しい。(Edith Eisler, Amazon.com)